耳について
耳は、聴覚に加え、自分の頭や身体の傾きを判断して身体のバランスを保つ平衡感覚も担っている重要な器官です。耳は、入口から鼓膜までの外耳、鼓膜と内耳の間にある中耳、振動を電気信号に変換する蝸牛と平衡感覚を判断する三半規管などがある内耳に分けられます。
耳の病気では、耳の痛みや痒み、耳が詰まっているような耳閉感、聞こえにくい難聴、耳鳴り、耳漏(耳だれ)など聴覚に関する症状や、めまいなど平衡感覚に関する症状を起こします。
難聴・耳鳴りに関しては院長が分担執筆いたしました書籍を参照ください。
(書籍:難聴・耳鳴診療ハンドブック)
耳の症状
- 耳の痛み
- 耳の痒み
- 耳漏(耳だれ)
- 耳からの出血
- 耳の腫れ
- 耳鳴り
- 幻聴(人の声・音楽など)
- 耳が詰まったような耳閉感
- 聞こえない・聞こえにくい
- めまい
など
耳の病気
耳垢栓塞
外耳道では、耳垢が自然に前へ運ばれて排出されるようになっていますが、耳掃除で耳垢を奥に押し込んでしまう、外耳道に入った水分で耳垢が膨張するなどによって、耳垢が外耳道に詰まる耳垢塞栓を生じることがあります。
耳垢は耳鼻咽喉科で安全に除去できます。ご自分で除去しようとすると余計に奥へ押し込んでしまったり、外耳道や鼓膜を傷付けてしまったりといった危険性があります。耳垢が詰まると聞こえにも悪影響を及ぼします。耳垢の除去は耳鼻咽喉科の診療対象となっておりますので、耳垢が気になったら気軽にご相談ください。
外耳炎
外耳道に炎症を起こしている状態です。耳かきや耳に水が入って発症するケースがあり、耳の痛みや痒み、耳漏(耳だれ)などの症状を起こします。軽い痛みや痒みを気にして耳かきを繰り返し、悪化させてしまうこともあります。
なお、長引く外耳炎では、真菌感染が疑われます。真菌(カビ)による炎症の場合、抗菌薬では効果が得られず、抗真菌薬による治療が必要となります。炎症が治らない、繰り返すなどの場合、症状が軽度でもできるだけ早い受診をお勧めしています。
急性中耳炎
風邪による鼻や喉の炎症に合併して生じやすく、幼い子どもの発症が多い傾向があります。大人と違い、子どもは鼻と中耳をつなぐ耳管が太くて短く、水平であることから鼻や喉の炎症が中耳に広がりやすく、中耳炎を起こしやすいとされています。
急性中耳炎の主な症状は、耳の痛み、発熱、耳漏(耳だれ)であり、痛みを起こすこともあります。
急性中耳炎の治療
抗菌薬、鎮痛薬などの処方を基本に治療します。鼓膜が大きく腫れていて痛みがあり、高熱が続いている場合には、鼓膜を切開して膿を排出させることで速やかに症状を改善できます。
滲出性中耳炎
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、咽頭炎などの原因疾患によって鼓膜の奥にある中耳に滲出液がたまっている状態です。急性中耳炎と違い、痛みを起こさないことも多く、気付きにくいため注意が必要です。
滲出性中耳炎の治療
原因疾患の適切な治療を行って経過を観察します。原因疾患の治療が進んでも滲出液の状態が改善しない場合には、排出のための鼓膜切開を検討します。慢性化させてしまうと治りにくくなりますので、適切な治療へ早めにつなげることが重要です。
突発性難聴
大音量を聞いたなど明らかな原因なく、突然、急に聞こえが悪くなる病気です。通常は片耳のみに起こり、全く聞こえなくなってしまう場合もありますが、耳が詰まるような耳閉感だけ生じるケースもあります。ウイルス感染や内耳の循環障害など多くの原因が指摘されていますが、明らかな原因はまだわかっていません。
突発性難聴は、3人に1は完治しますが、3人に1人はある程度の症状改善が見込める程度であり、3人に1人は聴力が改善しないという深刻な病気であり、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診して適切な治療を受けることで、聴力を残せる可能性が高くなります。発症から数日以内の受診が推奨されますが、遅くとも2週間以内の受診が不可欠とされています。
突発性難聴の治療
ステロイド、ビタミン剤、血流改善薬などを処方する薬物療法を行い、患者様の仕事内容など生活を考慮した上で投与後の数日間は効果や反応を観察します。高度な難聴、めまいを伴う、または糖尿病などで通常のステロイド治療が困難な場合や、投与後の改善が確認できない場合には、入院加療が必要になります。その場合には、連携している高度医療機関をご紹介します。
メニエール病
めまい発作を起こす疾患であり、多くの場合には片側の難聴や耳鳴りを伴います。めまい発作を繰り返すことに加え、高度な難聴を残してしまう可能性がありますので、早めに適切な治療を受けることが重要です。なお、ほとんどの場合は片耳に生じますが、まれに両耳に発症する場合もあります。
メニエール病の原因
まだはっきりとした原因はわかっていませんが、内耳にリンパ液がたまり過ぎる内リンパ水腫によって内耳が圧迫され、症状を起こしていると考えられています。また、疲労や睡眠不足、ストレスなども発症に関与すると指摘されています。
メニエール病の治療
内耳にたまった内リンパ液の排出を促すための利尿薬、循環改善薬、ビタミンB12などを使った治療を行います。めまいや吐き気を緩和するお薬や、難聴に対してステロイドを使用する場合もあります。
耳鳴り
耳鳴りは、外耳、中耳、内耳、脳内の中枢聴覚系などに生じた問題によって生じます。
耳鳴りの原因
内耳に障害があり、難聴を伴うケースが多くを占めます。ただし、検査をしても特に問題がなく生じているケースもあり、疲労や睡眠不足、ストレスなども発症に関与すると考えられています。
耳鳴りの治療
耳鳴りを完全に消すことは困難です。ただし、症状の緩和は可能であり、耳鳴りと上手に付き合うためのTRT(音響療法)で高い効果を得られるケースもあります。
聴覚情報処理障害(APD)
音としては聞こえているにもかかわらず、音声の聞き取りに困難が伴う状態です。聴覚検査では異常がないことから、症状のつらさを理解されずお悩みになっている方が少なくありません。まずは難聴ではないかを耳鼻咽喉科でしっかり調べた上で、適切な対策などを検討することが重要です。
聴覚情報処理障害(APD)と
難聴との違い
難聴は音そのものが聞こえにくい状態であり、耳に入ってきた音が脳に伝わるまでの間のどこかに障害があって聞こえない・聞こえにくい症状を起こしています。
APDでは、音が聞こえていても言葉が聞き取れないという状態であり、音が耳に入って脳までは正常に伝達されています。脳に伝わった情報を処理し「内容を理解する」部分に障害が起こっている状態がAPDです。
聴覚情報処理障害(APD)の
治療
患者様によって原因や背景などが大きく異なり、お薬などの治療で治るというものではありません。生活で生じる困りごとを改善するために有効な対策を行い、日常生活を快適に過ごせるようにすることが重要です。
顔面神経麻痺
顔面神経の働きが低下して表情筋のコントロールができなくなり、表情を変えることが困難になっている状態です。右の顔面神経の働きが低下すると右の表情筋がコントロールできなくなり、左の顔面神経の働きの低下によって左の表情筋のコントロールが困難になります。
顔面神経麻痺の原因
下記のような疾患によって生じるほとんどの顔面麻痺は片側に起こりますが、まれに両側の麻痺を起こすこともあります。
- ベル麻痺
- ハント症候群
- 外傷性麻痺
- 腫瘍性麻痺
- ライム病
- ギラン・バレー症候群
顔面神経麻痺の治療
発症後、できるだけ早く適切な治療を開始することで回復につながる可能性が高くなります。症状に気付いたら速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。なお、基本的にステロイドによる治療を行います。